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弁護士 野中法律事務所 八王子:相続発生後(死後)の手続き


【期限のある手続き】


【相続放棄】


【死後事務委任契約】


【葬儀費用・相続財産の管理費用の負担】


【相続登記】


   
相続発生後(死後)の期限のある手続き
期限 公的な届出・申請 届出・申請先
7日以内 死亡診断書の取得
死亡届の提出
死体埋・火葬許可証の取得
病院
市区町村役場
市区町村役場
10日以内 厚生年金の受給停止手続き
(受給権者死亡届の提出と未支給年金の請求等)
年金事務所
14日以内 世帯主の変更届の提出
国民健康保険の資格喪失手続き
後期高齢者医療制度の資格喪失手続き
介護保険の資格喪失手続き
国民年金の受給停止手続き
(受給権者死亡届と未支給年金の請求等)
市区町村役場
市区町村役場
市区町村役場
市区町村役場
年金事務所
3ヶ月以内 相続放棄または限定承認の申述
 相続人は
@ 相続財産全てを受け継ぐ単純承認 
A 一切受け継がない相続放棄
B 相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ限定承認
 を選択することができます。AとBを選択する場合は申請が必要です。
家庭裁判所
4ヶ月以内 準確定申告:被相続人の所得税の確定申告。 国税庁ホームページを参照してください。 税務署
6ヶ月以内(場合によっては1年以内) 特別寄与料の請求:相続人の親族で、特別の寄与をした者 (特別寄与者)による金銭の請求(概要は下記に記載してあります。) 協議、不成立の場合家庭裁判所
10ヶ月以内 相続税の申告・納付 *10カ月以内に遺産分割がまとまらなかった場合の 対策は下記のとおりです。 税務署


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*10カ月以内に遺産分割がまとまらなかった場合

* 相続税の申告と納付は10カ月以内に行うことになっていますが、遺産分割協議が
 成立していないときは、各相続人などが民法に規定する相続分に従って財産を取得
 したものとして相続税の計算をして、申告と納税をすることになります。
   ↓
  その申告後に遺産分割が行われ、その分割に基づいて計算した税額と申告した税額が
 異なるときは、修正申告又は更正の請求をすることができます。

  修正申告:初めの申告税額 < 遺産分割に基づく税額
  更正の請求:初めの申告税額 > 遺産分割に基づく税額

国税庁: 相続財産が分割されていないときの申告を参照して下さい。

* 遺産分割が申告期限までに間に合わなかった場合、小規模宅地等の課税価格の特例や
  配偶者の税額軽減の特例を受けることができません。
    ↓
  10カ月以内に遺産分割が終了しない場合には、その期間内に法定相続分で
 申告、納税します。
 その申告に際し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくと
 将来の遺産分割時に特例を適用できます。
    ↓
  さらに、3年以内に遺産分割がまとまらない場合には、
  「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」
 を提出しておく必要があります。  

 国税庁: 相続財産が分割されていないときの申告を参照して下さい。

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相続放棄


相続放棄の手続は、家庭裁判所に申し立てて行います。
具体的な手続きは、次の家庭裁判所のホームページを参考にして下さい。
家庭裁判所のホームページ:相続放棄の手続

*相続放棄で注意すべきこと


 相続財産のうち、マイナスの財産(負債)が、プラスの財産を上回っているような場合には
相続放棄をすることが検討されます。

 しかし、相続が発生したのちに、相続財産を売却するなど処分をした場合には、
放棄はできず、単純承認したものとみなされます。

1 民法921条は「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」は
 単純承認したものとみなすとし、

2 例外として、「保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、
 この限りでない。」と規定しています。

Q どのような行為が相続放棄が認められない処分なのでしょうか。
  具体的に検討します。


・ 葬儀費用の支払い
    社会的見地から不当なものとはいえないとして相続財産の処分には当たらないとした
    判例があります。

    大阪高裁決定平成14年7月3日 (原審では相続放棄の申述を却下していました。)

     この決定では、仏壇及び墓石の購入に関しても明白に法定単純承認たる「相続財産の処分」に
     当たるとは断定できないとしています。
      葬儀費用とは趣を異にしており、より慎重な判断が求められます。 

・ 電気、ガス、水道の解約
    相続財産の処分には当たりません。

・ 形見分け
    経済的価値がある場合は相続財産の処分に該当する可能性があります。   

・ 自動車の処分
    経済的価値がない場合の廃車は問題ありません。
    経済的価値がある場合の売却は相続財産の処分に該当する可能性があります。

・ 賃借物件の解約
    相続財産の処分に該当する可能性があります。

・ 生命保険金
    受取人が誰になっているのかに注意が必要です。
    受取人に指定されている場合には、受け取っても問題ありません。

・ 未支給年金     
    亡くなったときにまだ受け取っていない年金や、亡くなった後に振り込まれた年金のうち、
   亡くなった月分までの年金については、
     ↓
    未支給年金としてその方と生計を同じくしていた遺族が受け取ることができます。

    相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給が認められているため
   受け取っても、相続財産の処分には当たりません。


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特別の寄与(特別寄与料)の制度

(令和元年7月1日施行)

 趣旨
 従前は、長男の妻が、被相続人である舅姑の介護に努め、その財産の
維持・増加に貢献した場合にも、遺産分割手続きにおいては、相続人では
ないために、財産の分配を請求できませんでした。

 改正相続法では、相続人ではない親族(例えば相続人の配偶者)が、被相
続人の療養看護に努めるなどの貢献をした場合に、その貢献に応じた金銭
(特別寄与料)を、相続人に対して請求できる制度を新設しました。

1 要件
ア 請求権者(特別寄与者):被相続人の親族(相続人、相続放棄・相続欠格
・相続廃除の該当者を除く)

イ 無償で療養看護、その他の労務を提供したこと:労務の提供に限定され
るため財産の出資のみの場合は該当しません。

ウ 被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと:
その貢献に報いるのが相当と認められる程度の顕著な貢献があったこと 

* 特別寄与者は相続人ではありませんから、寄与分における「特別な寄与」のように
 「通常期待される程度の貢献を超えるもの」を意味するものではありません。

2 権利行使について
ア 期間制限
  家庭裁判所に対する調停・審判の申立ては、
 @ 相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月以内 
 A 又は相続開始の時から1年以内

注意:最長でも相続開始から1年以内に申し立てる必要があります。

イ 請求の相手
  相続人が複数いる場合には、特別寄与者は、相続人の一人または数人に
  対して請求をすることができる。

  *相続人が数人いる場合は、各相続人は、特別寄与料の額に、その相続人の
   法定相続分又は指定相続分を乗じた額をそれぞれ負担します。

<参考判例>


遺言により相続分がないものと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を
行使したとしても、特別寄与料を負担しないとされた事案

最高裁第1小法廷判決:令和5年10月26日


ウ 手続き
 @ 当事者の協議
 A 協議が不成立の時、家庭裁判所に処分を求めることができます。(調停・審判の申立)

3 特別寄与料の算定の目安
   寄与分の算定方法が参考になります。

   療養看護型=介護報酬相当額×療養看護の日数×裁量割合

   裁量割合については、介護報酬相当額の0.5〜0.8程度か。

4 相続税についての留意点
 ア 特別寄与料を受け取った側
    特別寄与料は、被相続人から遺贈によって取得したものとみなされ、
    「みなし遺贈」として相続税の課税対象になります。

    受け取った人が被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の人の場合
    (実際は殆どがこちらに該当します) 
    相続税の2割加算の対象となります。    

    相続税の申告期限は、額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内です。

 イ 特別寄与料を支払った側
  @ 相続税の申告前に支払った場合
     支払った特別寄与料について債務控除の適用を受けます。

  A 相続税を支払った後に特別寄与料を支払った場合
     相続税を支払いすぎたということで更正の請求(還付請求)ができます。

     更正の請求の期限は、額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内です。

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死後事務委任契約


Q 自分が亡くなった後、葬儀や遺品の整理、いろいろな支払いなどについて
頼める身寄りがいないときは、どうしたらよいでしょうか。


A 人が亡くなった後には、葬儀・役所への届け出等の手続・病院代等の清算など
様々な事務手続きが必要です。

 一般的には家族や親族がそれら(死後事務)を行いますが、身近にそのような
適当な人がいない場合には、死後事務を第三者や専門家に依頼することができます。
  ↓
 亡くなった後の諸手続き、葬儀、納骨、埋葬に関する事務などについての
代理権を付与して、死後事務を委任する契約を死後事務委任契約といいます。

Q どのようなことを委任しておけばよいでしょうか。


A 死後事務委任契約の委任事務の内容には次のようなものがあります。

 ・ 葬儀、納骨、埋葬、永代供養に関する事務

 ・ 親族等への連絡に関する事務

 ・ 行政官庁等への諸届(死亡届、健康保険、年金等)の事務 

 ・ 医療費、入院費等の清算手続きに関する事務

 ・ 老人ホーム等の施設利用料等の支払い及び入居一時金その他残債権の
  受領に関する事務  

 ・ 公共サービス等の名義変更・解約・清算手続きに関する事務

 ・生活用品・家財道具等の整理・処分に関する事務

 ・ ペットの施設入所など保護に関する事務

 ・ パソコンの情報消去、ホームページ、SNS、ブログ等の閉鎖、退会処理


 なるべく網羅的に委任事項を決めておくことで、死後事務手続きに不都合が
生じないようにしておくことが大切です。

Q 委任する場合の注意事項はどのようなことでしょうか。

 
1 委任契約は、死亡により終了することになっています(民法653条)ので、
 この死後事務委任契約は、委任者が死亡した場合でも終了しないことを
 明記しておく必要があります。

2 死後事務を行うには、諸支払いが伴いますので、あらかじめ受任者にお金を
 託しておく必要があります。
   ↓
  預託金といいますが、その金額については、事務内容に応じて適当な金額を
 決めることになります。

3 死後事務委任契約では、財産の承継については定めることができませんので 
  財産の承継については、別途遺言で定める必要があります。

4 認知症が心配な場合には、任意後見制度を利用することができます。

  任意後見契約と死後事務委任契約を併用することで

 万一、認知症になった場合には、
  生前は任意後見人が、代理人として必要な職務を行い
   ↓
  死後は死後事務委任契約の受任者が、必要な事務を行うことになります。

5 死後事務委任契約については、確実な内容にしておくために公正証書
 にしておくことが多いようです。


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葬儀費用・相続財産の管理費用の負担


1 葬儀費用の負担について

 
   葬儀費用は、相続開始後に生じるものですから、相続財産とは別個のもので、
  相続財産から当然に出せるものではありません。

  @ 個別の事情で異なりますが、一般的には喪主(葬儀を主宰した者)が一次的には 
   負担することになります。
    ↓
   そして、相続財産があれば、そこから支出されることも多いです。
   それは、相続人全員が葬儀費用を負担するという合意がなされた場合です。

  A 遺産分割の協議がうまくいかず、調停になった場合   
     葬儀費用の負担については、
   ア 共同相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象になります。   

   イ 合意が得られなければ、事務管理に基づく有益費償還請求などの
     民事訴訟手続で解決することになります。

    裁判例では、喪主が葬儀費用を負担するというものが多いようです。

参考判例: 名古屋高裁判決 平成24年3月29日

2 相続財産の管理費用の負担について


   遺産分割前の共有遺産の管理に要する費用には次のようなものがあります。

    例えば:固定資産税などの公租公課、電気・水道料金、建物修繕費用
        借地の地代、火災保険料など

  これら相続財産の管理費用も、相続開始後に生じた債務ですから、相続財産ではありません。

  @ しかし、相続財産の管理費用は、民法885条の「相続財産に関する費用」ですので、
   相続財産の中から支弁することになります。
      ↓
   相続財産管理費用の償還債務は相続債務に準じるものとして、
   各相続人が相続分に応じて負担することになります。
      ↓ 
  A 遺産分割の協議がうまくいかず、調停になった場合
    管理費用の清算について
   ア 共同相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象になります。   

   イ 合意が得られなければ、民事訴訟手続で解決することになります。

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相続登記


不動産の相続が発生しても、これまでは登記するかどうか任意でした。
そのため、「所有者不明土地」が増えて様々な問題が生じてきました。
そこで、相続登記を義務化する法改正がおこなわれ、令和6年(2024年)4月1日から
施行されることになりました。

* 改正法の施行日より前に発生した相続についても遡及適用されるので要注意です。

1 相続登記の申請義務

 
@ 相続によって不動産を取得した相続人は、

  その所有権を取得したことを知った日から3年以内に

  相続登記の申請をしなければならない。

A 遺産分割が成立した場合には、不動産を取得した相続人は、

  遺産分割が成立した日から3年以内に

  その内容の登記の申請をしなければならない。

正当な理由がないのに@Aの義務に違反した場合、10万円以下の過料の適用対象になります。

2 相続人申告登記

 
戸籍謄本などの資料の収集が困難で、法定相続人の特定が難しいなどの場合には、
簡易に相続人申告登記をしておくことができます。

ア 登記簿上の所有者について相続が開始したこと

イ 自分がその相続人であること

この2点を申し出ることで、上記@の義務を履行することができます。

 全ての相続人を把握するための戸籍謄本等の資料は必要ありませんが、
自分が相続人であることが分かる戸籍謄本等を提出すればよいことになります。

 但し、この申し出により、申し出をした相続人の氏名・住所等が登記されますが、
持分割合は登記されません。→ 従来の相続登記とは異なるものです。


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