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弁護士 野中法律事務所 八王子:相続分の譲渡


 相続に際して、自分の相続分を他人に譲渡することができます。
基本的な考え方や利用方法の概要を紹介します。

1. 相続分の譲渡とは


@ 自分が相続により取得する持分(相続分)を、
A 他人に対し、
B 譲渡することです。

@ 全部の相続分を譲渡することも、一部の相続分を譲渡することも可能です。 
  譲渡するのは相続財産の包括的持分であり、個別の財産ではありません。

A 共同相続人に対して譲渡することが殆どですが、
  その他の第三者に対して譲渡することもできます。   

   第三者に相続分が譲渡された場合、共同相続人は、1か月以内に
   取戻権を行使することができます。(民法905条)
             
B 譲渡は、無償で行う場合と、有償で行う場合とがあります。

   多少のお金をもらえば相続分を譲ってもよいと考える相続人は、   
   有償での相続分譲渡により、遺産分割手続きから早期に離脱することができます。
             

2.相続分の譲渡が利用される具体例

 
 利用例としては例えば次のようなものがあります。 

(1) 相続をめぐる問題・トラブルに関わりたくない場合。 
    相続分を譲渡すると、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。            

(2) 自分の配偶者や孫、世話になった人に遺産を相続してもらいたい場合。 

(3) 共同相続人が大勢いる場合、相続分の譲渡をして人数を少なくして、
  遺産分割協議をやりやすくする場合。


3.相続分の譲渡をすると、どのようになるのか。


 相続分の譲渡は、譲渡の時に効力を生じます。
  ↓↑           
 遺産分割は、効力が相続の時に遡ります。 

(1) 譲受人の地位
   ・ 遺産分割手続きに関与できることになります。
   ・ 債務も承継します。
       

(2) 譲渡人の地位
   ・ 遺産分割手続きの当事者になれません。

   * 債務は譲受人に承継されますが、
     相続分の譲渡は、債権者の関与がなくて行われますので、
     譲渡人は、対外的には債務を免れません。
  

4.相続放棄との違い、どのように使い分けるか。


 相続分の譲渡と相続放棄のどちらによっても遺産分割協議手続きから離脱することができます。
 次のような違いがあります。

(1) 相続債務の承継   
 ア 相続放棄では、相続債務から免れます。 
   
 イ 相続分の譲渡では、譲受人との間では譲受人に承継されますが、    
   債権者との関係では、相続債務を免れることはできません。
  
(2) 期間制限  
 ア 相続放棄は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から   
  3か月以内に、家庭裁判所での手続きが必要です。
  
 イ 相続の譲渡は、相続開始後から遺産分割が成立するまでの間、いつでもできます。

(3) 相手方の特定    
 ア 相続放棄では、放棄により他の相続人の相続分を増加させることができますが、    
  特定の相続人や第三者に対してのみ相続分を移転することはできません。
 
 イ 相続分の譲渡では、特定の相続人や第三者に相続分を譲ることができます。

(4) 一部の移転    
 ア 相続放棄では、相続財産の一部のみの放棄はできません。

 イ 相続分の譲渡では、一部のみの譲渡が可能です。

5.相続分譲渡の方法

  
(1) 相続分の譲渡には、法律上特別な方式はありませんが、  
   書面を作っておくことが望まれます。
   表題としては、「相続分譲渡証書」とか「相続分譲渡証明書」などとされています。

   ・ 共同相続人の取戻権行使の関係から、第三者に相続分の譲渡をした場合には、
    共同相続人に対し、相続分を譲渡した旨の通知をしておくのがよいでしょう。

(2) 相続財産に不動産がある場合には、登記手続きに実印が押された
  「相続分譲渡証書」とか「相続分譲渡証明書」と印鑑証明書が必要となります。
  
(3) 家庭裁判所では、相続分譲渡に関する一連の書式を用意しています。 

  ・ 京都家庭裁判所のホームページが参考になります。
    「相続分譲渡について(説明書)」  

6.相続分譲渡の注意点


 (1) 譲渡人としては、相続分を譲渡することにより、遺産分割手続きから離脱できますが、   
   債権者との関係では、債務を免れることはできません。
     ↓
    被相続人に負債がある場合は、譲受人がきちんと返済してくれるか慎重に判断する必要があります。    

 (2) 譲受人が第三者の場合は、税金の負担に注意が必要です。 
     譲渡人が一旦遺産を相続で取得したうえで、
     その後に相続分を第三者(譲受人)に譲渡したと考えます。

    無償での譲渡の場合
     譲渡人:相続税の負担
     譲受人:贈与税の負担

    有償の場合
     譲渡人:相続税の負担、譲渡対価についての譲渡所得税の負担の可能性
     譲受人:著しく低い価額での譲渡の場合、差額について贈与税の可能性

 (3) 共同相続人間でなされた無償による相続分の譲渡について

    最高裁は、平成30年10月19日判決において
     相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除いて、譲渡人の相続において     
     民法903条1項の贈与に当たるとしました。     

    相続分譲渡が、譲渡人の相続において、その価額を遺留分算定の基礎となる財産額に
    算入すべき贈与に当たると判断したものです。

共同相続人間においてなされた無償による相続分の譲渡が
民法903条1項に規定する贈与に当たるかどうかが争われた事案

最高裁第2小法廷判決:平成30年10月19日

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