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弁護士 野中法律事務所 八王子:借地


 借地に関して、次のような相談がよくあります。

借地の相続

借地権の譲渡

増改築・建替え

地代

契約更新


それぞれについて、考え方や法的な手続きの概要を紹介します。

Q 父親が死亡して相続が発生しました、借地権の相続はどうすればよいのでしょうか。

A 一般的な流れは次のようになります。

1 借地権は、相続財産ですので相続の対象となります。

2 借地権の相続についての遺言があれば、それに従います。
  
  遺言がなければ、相続人の間で遺産分割の協議をして、誰が借地権を相続するか
 決めます。

3 建物の所有者の登記名義を父親から、新たな借地権の相続人に変更します。
   ・ 法務局で登記名義の変更手続き(所有権移転登記手続)をします。
   ・ 建物の所有者が変更したことが明確になるので、この名義変更手続きをお勧めします。 

4 地主との間で、借地契約の名義を変更します。
   ・ 相続による借地権の移転については、地主の承諾は必要ありません。
   ・ したがって、移転についての承諾料は不要です。
   ・ 新しい契約書を作成する場合、手数料程度かかることがあります。
  
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Q 借地権を譲渡したい(売りたい)ときはどうすればよいのでしょうか。

A 一般的な流れは次のようになります。

1 借地権は、財産的な価値があり、借地人はそれを売ることができます。

2 借地人が、借地権(借地権上の建物も一緒の扱いになりますので、正確には
 借地権付建物)の買主を探します。
   不動産業者に依頼して買主(新借地人)を探すことになると思います。

3 買主が見つかったら、借地権の譲渡について地主の承諾をもらいます。
  ・ 賃貸借契約は、信頼関係が大切ですので、地主としてもどういう人が借地人に
   なるのか、重大な問題なのです。

  ・ 借地人としては、地主の承諾を得る際に、一般的に承諾料の支払いを求められます。
    承諾料としては、借地権価格の10%程度とされています。
     ↓
    地主の承諾が得られないときは、裁判所で承諾に代わる許可をもらうことができます。
    その場合にも、通常同様の承諾料の支払いが求められます。

     * この裁判所での手続きは非訟事件手続きと言い、その流れは裁判所の
      ホームページを参照してください。 
         借地非訟事件手続きの流れ

4 売主(旧借地人)と買主(新借地人)との間で、借地権付き建物の売買契約をします。
   ・ 借地権の内容(借地契約の内容、対象土地の所在、面積、地代、契約期間等)、及び
   建物の評価などを踏まえて売買代金を決めます。

   ・ 譲渡の承諾料の負担は新旧借地人のどちらかが負担することになります。
   それも踏まえて売買代金が決められます。

5 旧借地人から新借地人への建物の所有権移転登記をします。
  承諾料の支払いを経て
     ↓
6 地主と新借地人(借地権の買主)との間で、借地契約を締結します。
  ・ 新借地人は、旧借地人の借地権の内容ををそのまま譲リ受けていると考えられます。
   従って、地代や借地契約の期間はそのまま引き継がれます。
     ↓
  ・ 新借地人が家を新築する場合には、別途建替え承諾料が求められます。
    
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Q 増改築・建替えの際の手続きはどうするのですか?

A 借地上の建物について、修繕が必要になったり、増改築、更には建替えをしたいという
 状況が発生します。そんな時の一般的な流れを説明します。

1 土地は地主の所有物ですが、建物に関しては借地人の所有物ですので、自由にできそうですが、
 建物に手を加えることによって、利用方法が異なってきたり、耐久性が増したりすることで、
 地主にも多大な影響が及ぶことがあります。
    ↓
  そこで、賃貸借契約書には、増改築には地主の承諾が必要と明記されることが多いのです。

2 このような増改築禁止特約がある場合には、地主の承諾を得る際に、承諾料の支払いを  
 求められることが多いと思います。

  * 通常の修繕、内装リフォームなどは、地主の承諾は必要ありませんが、
  * 大規模な修繕・リフォームについては、地主の承諾が求められる可能性があります。
     土台、柱など構造物・主要部分に係る工事などが問題となります。

3 借地人としては、まず地主に対して、増改築について図面などに基づいて計画を説明します。
    ↓
  そして、承諾料の支払いについて合意ができれば、合意内容を明確にしておくために
  その合意書面を作成しておくのがよいでしょう。

4 問題は、承諾料がどのくらいかということです。
    ↓  
  基準としては、
   ・ 建物取壊し全面改築の場合は、更地価格の3%相当額とされています。

   ・ それに改築による床面積の増減を加味します。  
       増加の程度により更地価格の5〜6%とか
       全面改築に至らない場合には更地価格の1〜3%とか

  * 建替えが、木造から鉄筋など堅固な建物に変更される場合は、借地条件の変更となり
   ・ 承諾料は更地価格の10%相当額とされています。

5 地主の承諾が得られない場合には、借地人としては、裁判所に地主の「承諾代わる許可」
 を求めることができます。
    ↓
  裁判所は、借地人に「承諾に代わる許可」を出すときに、財産上の給付を命じます。
  その金額が、前記4のような内容なのです。

     * この裁判所での手続きは非訟事件手続きと言い、その流れは裁判所の
      ホームページを参照してください。 
         借地非訟事件手続きの流れ

6 なお、増改築の場合には、借地契約の期間については伸長しないというのが一般的なようです。
   
  * 木造から鉄筋など堅固な建物に変更される借地条件の変更の場合は、
   借地契約の期間については伸長されるというのが一般なようです。   


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地代について


  地代を決める場合には、次の二つの場面があります。
  @ 最初の地代(新規賃料)をどのように決めるか。
  A その後の地代(継続賃料)をどのように決めるのか。
     

(1) 最初の地代(新規賃料)をどのように決めるか。


 1 新規地代は、地主と借地人との話し合い、合意で決めるので、特に紛争になる
  ということはないと思われます。   
    
    不動産鑑定評価基準では、@ 実質賃料、とA 支払賃料とに分けて考えています。

@ 実質賃料: 毎期の地代・家賃として支払われるもの以外に、権利金・保証金などがあれば、
その償却額や運用益などを加えたすべての経済的対価を含めたもの。

 この求め方については、土地の価格に不動産利回りを考慮して、固定資産税等の必要経費等
を加えて算出する積算法、賃貸事例比較法、などにより試算賃料を求めて決定していきます。

A 支払賃料: 毎期に実際に支払われている地代・家賃

 *2 一般実務的には、土地価格に借地権割合を乗じて権利金を決定し、地代は近隣の継続地代を
参考にして決定しているようです。  

(2) その後の地代(継続賃料)をどのように決めるのか。


 1 借地借家法第11条では、地代等が    
    @ 土地に対する租税その他の公課の増減により
    A 土地の価格の上昇又は下降により 
    B その他の経済事情の変動により   
    C 近傍類似の土地の地代等に比較して    
   不相当になったときは、地代等の増減の請求ができるとしています。   
   
 2 継続地代の決定について、不動産鑑定評価基準では、
  @ 差額配分法 A 利回り法 B スライド法 C 賃貸事例比較法    
  これらの方法により求められる各地代を関連付けて決定するとされています。
   
  @ 差額配分法:
   ア 現在の土地の経済価値に即応する新規地代を決める。 
   イ その地代と実際の支払地代との差額のうち、地主に帰属する部分を求める。
   ウ その地主帰属部分を実際支払地代に加える。   
   
  A 利回り法:   
   ア 現在の純地代(地代から前回改定時の必要諸経費等を控除した額)が、   
    当時の地価に対して何%の利回りになっていたか調べる。(継続地代利回り)
   イ 現在の地価に、この継続地代利回りを乗じて改訂すべき純地代を求める。   
   ウ これに現在の必要諸経費等を加える。   

  B スライド法   
   ア 前回改定時から現在までの各種の変動率(地価、諸物価、所得水準等の)を   
    示す各種指数を総合的に勘案して変動率を求める。    
   イ 純地代にその変動率を乗じて、現在の必要経費等を加える。   

  C 賃貸事例比較法   
    近隣地域又は同一需給圏内の類似地域における類似の借地条件における
   適正な水準にある地代と比較して改定地代を求める。
   
 3 実務で補助的に採用されている算定方法
  @ 公租公課倍率法
    土地の固定資産税と都市計画税の合計額に、一定倍率を乗じて算定する。       

   

(3) 地代の増減をめぐる紛争の手続き



  地代の改定に際して、協議をしてもまとまらない場合
  
@ 調停の申立(民事調停法24条の2 調停の前置))
 ア 簡易裁判所に民事調停を申立て、その中で合意が成立すれば、調停調書が作成されます。

 イ 合意が成立しない場合
  (ア) 調停委員会の定める調停条項に服する旨の書面による合意がなされれば、
       調停委員会が適正地代を定めて、それを調停条項とします。
      (民事調停法24条の3)
  (イ) (ア)の同意がなされない場合、民事訴訟で適正地代を争うことになります。

A 訴訟の提起
   賃料増減額請求、賃料改定請求などの名称で、適正地代の確認を求める訴訟を
   裁判所に提起することになります。  
 

(4) 裁判例の概要 


   
裁判所の判断枠組みは次のとおり。 総合方式と言われています。
    
  借地借家法の賃料増減請求に関する規定は、土地又は建物の賃貸借契約が長期間に及ぶ
 ことが多いため、事情変更に応じて不相当になった賃料を調整し、当事者の公平を図ること 
 を目的としたものである   
       ↓
  賃料増減請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては
       ↓ 
  直近合意賃料を基にして、それ以降の経済事情の変動等のほか、
  賃貸借契約の締結経緯、契約内容等の賃料額決定の要素とした事情等の諸般の事情を
 総合的に考慮すべきである

  
具体的な相当賃料の決め方  

  @差額配分法 A利回り法 Bスライド法 C賃貸事例比較法
  といった各算定方式の長所・短所を考慮して、事実関係に即し
  適切妥当な複数の算定方式を選択し、軽重優劣の程度を判定し、
  各方式ごとの試算賃料を比較考量して、法的に合理的な相当賃料を決めています。 
  
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更新について


  賃貸借契約の期間満了のとき、契約を更新する際に、更新料の支払いをめぐり
  問題が生じることがあります。
  

(1) 更新料の意義と法的性質


 ア 更新料とは、土地の賃貸借契約の存続期間が満了した場合に、その契約の更新に
  際して、賃借人から賃貸人に対し支払われる一時金のことをいいます。   

 イ (法的)性質については、次のような諸見解があり、複合的な性質を持っています。

  ・ 実際支払われる地代と経済地代(底地価格に利回りを乗じ公租公課を加算したもの)  
   との差額を補充するもの

  ・ 賃貸人が更新に関する異議権を放棄する対価である

  ・ 賃借人の賃借権消滅のリスクに対する安心料

  ・ 増改築や借地条件の変更を見越しての円満な関係を保つため

最高裁第2小法廷判決:平成23年7月15日

 * 最高裁H23.7.15は、建物賃貸借契約に関する件ですが、次のように言っています。

   「更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、
   その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると
   
   更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の
   趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。」

(2) 更新料に関する諸問題



 ア 賃貸人は賃借人に対して、更新料を請求できるか。

  @ 更新料支払いの特約がない場合
     判例は否定的な判断をしています。
     大都市圏では、更新料支払いの慣行が相当あると思われますが、
     慣習法ないしは事実たる慣習とまではいえないとの判断がなされるようです。

  A 更新料支払いの特約がある場合
     更新料支払いの合意がなされているときは、その額が暴利性を帯びない限り、
     その合意は、当事者の私的自治に基づくものとして有効と考えられています。

 イ 更新料の支払義務があるのに、支払わなかった場合はどうなるか。

  @ 更新料の不払いは、更新契約の債務不履行ですから、賃貸人は、更新契約を
   解除することができます。 

  A 更新契約のみならず、賃貸借契約自体を解除することができるかという点に
   ついては、賃貸借契約当事者間の信頼関係を維持する基盤を失わせる著しい
   背信行為があったとして、解除が認められる場合があります。

 最高裁第2小法廷判決:昭和59年4月20日では

 更新料が、将来の賃料の一部としての性質や、更新に関する異議権の放棄の対価、
紛争の解決金としての性質を持つ事情がある場合について、更新料の不払いの場合に
契約解除ができるとしています。

(3) 更新料の金額


 ア 算定方法
   契約に至った経緯、契約の内容(借地期間の長さ・地代の改定状況等)、地価の変動
  その他の事情を総合考慮して、更新料授受の目的に沿う方向で決定されるようです。


 イ 金額
   個々の事情により幅はありますが、更地価格の数%に相当する金額が多いようです。

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