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最近の判例から（概要です）

• 相続回復請求の相手方である表見相続人は、真正相続人の有する
  相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が
  相続した財産の所有権を時効により取得することができるとした事案

  
  
  最高裁第３小法廷判決：令和６年３月１９日
  
  
  
  

• 遺言により相続分がないものと指定された相続人は、
  遺留分侵害額請求権を行使したとしても、特別寄与料を負担しないとされた事案

  
  
  最高裁第１小法廷判決：令和５年１０月２６日
  
  　事案：被相続人には相続人としてAとB二人の子がいた。
  　被相続人は、財産全部をAに相続させる旨の遺言をしていた。
  　そこでBはAに対して、遺留分侵害額請求権を行使した。
  　Aの妻は、Bに対して、特別寄与料のうち、Bが負担すべき相当額の支払いを求めた。
  
  　　遺言により相続分がないものと指定された相続人であっても、
  　遺留分侵害額請求権を行使した場合には、特別寄与料について遺留分に応じた
  　額を負担するのが相当であるかが争点となった。
  
  　原審（名古屋高裁）
  
  　　相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料について、民法９００条から
  　９０２条までの規定により算定した相続分（法定相続分等）に応じた額を負担するから
  　（１０５０条５項）、遺言により相続分がないものと指定された相続人は特別寄与料を
  　負担せず、遺留分侵害額請求権を行使したとしても左右されず負担しないとした。
  
  　最高裁も次の通り判断し、Aの妻の抗告を棄却した。
  
  　　民法１０５０条５項は、相続人が数人ある場合における各相続人の特別寄与料の　
  　負担割合について
  　　相続人間の公平に配慮しつつ、特別寄与料をめぐる紛争の複雑化、長期化を
  　防止する観点から、
  　　相続人の構成、遺言の有無及びその内容により定まる明確な基準である法定相続分等に
  　よることとしたものと解される。
  　　　　↓　
  　　このような同項の趣旨に照らせば、遺留分侵害額請求権の行使という同項が
  　規定しない事情によって、上記負担割合が法定相続分等から修正されるものではない。
  　　　　↓
  　　遺言により相続分がないものと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を
  　行使したとしても、特別寄与料を負担しないと解される。
  
  
  

• 離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき
  損害賠償債務は、離婚の成立時から履行遅滞となる
  とした事案

  
  最高裁第２小法廷判決：令和４年１月２８日
  
  　事案：離婚に伴う慰謝料としての損害賠償債務が、いつから
  　履行遅滞に陥るかが争点になった。
  
  　最高裁は、次のように述べて原審を一部変更した。
  　　
  ア　離婚に伴う慰謝料は、夫婦の一方が、他方に対し、その有責行為により　　
  　離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を　　　
  　求めるものであり　
  　　　↓　　
  　　このような損害は離婚が成立して初めて評価されるものであるから　
  　その請求権は離婚の成立により発生する　　　　　　　
  　　　　
  イ　不法行為による損害賠償債務は、損害の発生と同時に、何らの催告を　　
  　要することなく、遅滞に陥る　
  　　　↓　
  　　離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は、
  　離婚の成立時に遅滞に陥ると解するのが相当である。
  
  ここでは、＜離婚に伴う慰謝料＞と＜婚姻関係の破綻を生ずる原因となった
  個別の違法行為による慰謝料＞＜婚姻関係の破綻自体による慰謝料＞とが
  区別されています。　
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• 同一の交通事故で、身体傷害及び車両損傷が生じた場合、車両損傷の
  損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、車両損傷を理由とする
  損害を知った時からとした事案

  
  
  最高裁第３小法廷決定：令和３年１１月２日
  
  　事案：同一の交通事故により身体傷害及び車両損傷を受けた場合、車両損傷についての
  　不法行為に基づく損害賠償請求権の起算点が争点になった。
  
  　原審（大阪高裁）
  　　車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の短期消滅時効は、
  　被害者が、加害者に加え、当該事故による損害の全体を知った時（本件では
  　症状固定の診断がなされた日）から進行すると解するのが相当であるとした。
  
  　最高裁は、次のように述べて原審を一部破棄した。
  　　
  ア　車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の短期消滅時効は、　
  　同一の事故により同一の被害者に身体傷害を理由とする損害が生じた場合であっても　　
  　被害者が、加害者に加え、車両損傷を理由とする損害を知った時から進行するものと
  　解するのが相当である。　
  　
  イ　なぜなら、車両損傷を理由とする損害と身体傷害を理由とする損害とは　　　　　　
  　同一の事故により同一の被害者に生じたものであっても、被侵害利益を異にするもので　　　
  　あり、　
  　　車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は
  　身体傷害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権とは異なる請求権である。
  　　　↓　
  　　各損害賠償請求権の短期消滅時効の起算点は、請求権ごとに各別に判断されるべき　
  　ものである。　
  
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• 父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、
  家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として子との面会交流について
  定める審判を申し立てることはできないとされた事案

  
  
  最高裁第１小法廷決定：令和３年３月２９日
  
  
  　事案：子の祖父母が、子の父を相手方として（子の母は死亡）、子の監護に
  　関する処分として子との面会及びその他の交流について定める審判を申立てた。
  
  　原審（大阪高裁）
  　　父母以外の事実上子を監護してきた第三者が、子との間に父母と同視
  　し得るような親密な関係を有し、子との面会交流を認めることが子の利益に
  　かなうような場合には
  　　　↓
  　　民法７６６条１項及び2項の類推適用により、子の監護に関する処分として
  　面会交流を認める余地がある。
  
  　子の祖父母であり、子の母を補助して事実上子を監護してきた者の申立てについて
  　　　↓
  　子との面会交流を認めることが、子の利益にかなうか否かなどを審理することなく、
  　申立てを不適法として却下することはできない。
  
  
  　最高裁は、次のような理由で原審を破棄した。
  　　
  ア　民法７６６条１項前段は、父母が協議上の離婚をするときは、父又は母と
  子との面会交流その他の監護について必要な事項は、父母が協議をして
  　定めるものとしている。
  　　　↓
  　　同条２項が「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、
  　家庭裁判所が、同項の事項を定める。」と規定している。
  　　　↓　　　
  　　同条２項は、同条１項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が　　
  　子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。
  
  
  イ　民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に
  　監護に関する事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく
  
  　　監護の事実をもって第三者を父母と同視することもできない。
  
  　　子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければ
  　ならないものであるが、第三者に申立てを許容する根拠となるものではない。
  
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• 父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、
  家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を
  定める審判を申し立てることはできないとされた事案

  
  
  最高裁第１小法廷決定：令和３年３月２９日
  
  　事案：子の祖母が、子の実母及び養親を相手方として、子の監護に関する
  　処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てた
  
  　原審（大阪高裁）
  　　子の福祉を全うするためには、民法７６６条１項の法意に照らし、事実上の
  　監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として
  　子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることができると解すべき
  　　　↓　　　
  　　子の監護をすべき者を祖母と指定すべき
  
  
  　最高裁は、次のような理由で原審を破棄した。
  　　
  ア　民法７６６条１項前段は、父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者
  　その他の監護について必要な事項は、父母が協議をして定めるものとしている。
  　　　↓
  　　同条２項が「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、
  　家庭裁判所が、同項の事項を定める。」と規定している。
  　　　↓　　　
  　　同条２項は、同条１項の協議の主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が　　
  　子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される。
  
  
  イ　民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に
  　監護に関する事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく
  
  　　監護の事実をもって第三者を父母と同視することもできない。
  
  　　子の利益は、子の監護に関する事項を定めるに当たって最も優先して考慮しなければ
  　ならないものであるが、第三者に申立てを許容する根拠となるものではない。
  
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• 自筆遺言証書に、真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されて
  いるからといって、その遺言が無効となるものではないとされた事案

  
  
  最高裁第１小法廷判決：令和３年１月１８日
  
  　事案：Aは、平成２７年４月１３日入院先の病院で遺言の全文、日付、氏名を自書し、
  　退院して９日後の同年５月１０日に弁護士立会いの下、押印し、その３日後に死亡した。
  
  　遺言の内容は、内縁の妻と子に遺贈し又は相続させるなどというものであった。
  　遺言が無効かどうか争われた。
  
  　原審（名古屋高裁）
  �@　自筆証書遺言には、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならず、
  　本件遺言書には押印がされた５月１０日の日付を記載すべきであった。
  
  �A　自筆証書遺言に記載された日付が真実遺言が成立した日の日付と相違しても
  　ア　その記載された日付が誤記であること　及び
  　イ　真実遺言が成立した日が、遺言書の記載その他から容易に判明する場合
  　　には、遺言を無効とするものではないと解される。
  
  �B　本件では
  　ア　Aが遺言書に「平成２７年５月１０日」と記載するつもりで誤って
  　　「平成２７年４月１３日」と記載したとは認められない。
  
  　イ　真実遺言が成立した日が、遺言書の記載その他から容易に判明する　
  　　ともいえない。
  
  　　本件遺言は、真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されているから
  　無効である。
  
  　最高裁は次の通り判断し、破棄差し戻した。
  
  �@　自筆証書遺言には、真実遺言が成立した日の日付を記載しなければならない。
  
  　本件遺言が成立した日は、押印がされて遺言が完成した５月１０日であり、
  　遺言書には同日の日付を記載しなければならなかった。
  
  �A　民法９６８条１項が、自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の
  　自書並びに押印を要するとした趣旨は、遺言者の真意を確保すること等にあるところ
  　　　　↓　
  　　必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を
  　阻害するおそれがある。
  　　　　↓
  　　本件の事実関係の下では、真実遺言が成立した日と相違する日の日付が記載されて
  　いるからといって、直ちに遺言が無効になるものではない。
  
  
  
  
  

• 財産分与の審判における建物明渡請求事案

  
  最高裁第１小法廷判決：令和２年８月６日
  
  　事案：AとBが、婚姻中にその協力によって得た財産としてA名義の本件建物があり、　
  　　現在Bが占有している。
  　　財産分与の審判において、家庭裁判所が家事事件手続法１５４条２項４号に基づき、　　　　
  　　Bに対し、Aに本件建物を明け渡すよう命ずることができるか否かが争われました。
  　　　　
  　原審（東京高裁）：本件建物をBに財産分与しないものとしたうえで、明渡し請求は、
  　　所有権に基づくものとして民事訴訟の手続きにおいて審理判断されるべきもので、
  　　家事審判の手続きにおいて明渡しを命ずることはできないとしました。　　
  　
  　最高裁は、次の通り判断し、破棄差し戻しました。
  
  １　財産分与の審判において、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額
  その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める
  こととされている（民法７６８条３項）。　　
  　　　↓　
  もっとも、財産分与の審判がこれらの事項を定めるものにとどまるとすると、当事者は、　
  財産分与の審判の内容に沿った権利関係を実現するため、審判後に改めて給付を求める
  訴えを提起する等の手続きをとらなければならないことになる。 　
  　　　　
  ２　家事事件手続法１５４条２項４号は、このような迂遠な手続を避け、財産分与の審判を　
  実効的なものとする趣旨から、　
  　　　↓
  家庭裁判所は、財産分与の審判において権利関係を実現するために必要な給付を命ずることが
  できることとしたものと解される。　
  　
  ３　同号は、財産分与の審判の内容と命ずることができる給付との関係について特段の限定を　
  していない。
  　　　↓
  当事者AB双方がその協力によって得たAの所有名義の財産につき、Bに分与する場合はもとより、
  分与しないと判断した場合であっても、その権利関係を実現するため、必要な給付を命ずる
  ことができると解することがその趣旨にかなう。
  　　　
  ４　家庭裁判所は、財産分与の審判において、当事者AB双方がその協力によって得たAの
  所有名義の不動産であってBが占有するものにつき、Bに分与しないと判断した場合、
  その判断に沿った権利関係を実現するため、必要と認めるときは、家事事件手続法
  １５４条２項４号に基づき、Bに対し、Aにこれを明け渡すよう命ずることができる
  と解するのが相当である。
  
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• 交通事故の逸失利益の定期金賠償請求事案

  
  最高裁第１小法廷判決：令和２年７月９日
  
  
  　事案：交通事故当時４歳の子に高次脳機能障害の後遺障害が残り、労働能力を　
  　　全て喪失しました。後遺障害による逸失利益として、就労可能期間の始期である
  　　１８歳になる月の翌月から６７歳になる月までの間に取得すべき収入額を、　　　　
  　　その間の各月に、定期金により支払うことを求めました。
  　　　　↓
  　　　将来介護費用については、定期金賠償の方法が認められていますが
  　　後遺障害による逸失利益について、一時金ではなく定期金による賠償という
  　　賠償方法が認められるのかどうか争われました。　　
  　
  　最高裁は、次の通り判断しました。
  １
  (1)　不法行為制度の目的：被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを　
  賠償させることにより、被害者が被った損害を補填して、不法行為がなかったときの状態に　
  回復させること　
  
  不法行為制度の理念：損害の公平な分担を図ること　
  　　　　
  (2)　後遺障害による逸失利益について
  　
  　将来において取得すべき利益の喪失が現実化する都度これに対応する時期にその利益に
  対応する定期金の支払いをさせる とともに　
  　
  　算定した損害の額と現実化した損害の額との間にかい離が生ずる場合には、民訴法
  １１７条によりその是正を図ることができるようにすることが相当と認められる場合がある　
  　
  (3)　不法行為制度の目的・理念に照らして相当と認められるときは、逸失利益は、定期金　
  による賠償の対象になる。　
  
  ２　定期金による賠償を命ずるに当たっては、
  
  交通事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における
  死亡が客観的に予想されていたなどの特段の事情がない限り、
  　　　↓
  就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを 要しない.
  
  ＜被害者としては、一時金として受け取る場合には、将来の利息分が差し引かれるために、不満が
  ありました。賠償金の受け取り方法として、一時金か定期金か選択肢が増えることになります。＞
  
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• 歩合給制の場合の残業代等請求事案

  
  最高裁第１小法廷判決：令和２年３月３０日
  
  　事案：タクシー乗務員が、勤務会社に対し、
  歩合給の計算に当たり、売上高（揚高）等の一定割合に相当する金額から、
  残業手当等に相当する金額を控除する賃金規則の定めが無効であるとして、　　
  控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払いを求めました。　
  　
  　最高裁は、概ね次の通り判断し、東京高裁の原判決を破棄し差戻しました。
  
  一般論として
  
  ・　労働基準法３７条の趣旨は、次の通り。　
  　
  �@　使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働を抑制し、もって
  労働時間に関する規定を遵守させる
  
  �A　労働者への補償
  
  ・　使用者が、労働契約に基づき、労基法３７条等に定められた方法以外の方法に　　
  より算定される手当を時間外労働等に対する対価として支払うこともできる。　
  　↓
  ・　その場合、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金相当部分の金額を　
  基礎として労基法３７条等に定められた方法で算定した割増賃金を下回らないことが必要である。　
  ↓　
  ・　その前提として、賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に　
  当たる部分とを判別することができることが必要である。
  
  ・　特定の手当が時間外労働等に対する対価として支払われていると判断するには　
  労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきである。
  判断に際しての留意点は、
  　手当の名称
  　算定方法
  　法の趣旨を踏まえての、労働契約の定める賃金体系全体における手当の位置づけ
  
  本件賃金規則について
  
  ア　本件賃金規則における割増金は、残業等の各時間数に応じて支払われる一方で、その金額は
  通常の労働時間の賃金である歩合給の算定に当たり控除される数額としても用いられている。
  
  ・　割増金が時間外労働等に対する対価として支払われるものであるとすれば、
  割増金の額がそのまま歩合給の減額につながる仕組みは、
  　↓
  売上高（揚高）を得るに当たり生じる割増賃金をその経費とみた上で、その全額をタクシー
  乗務員に負担させているに等しいもので、労基法３７条の趣旨に沿わない。
  
  イ　本件賃金規則における割増金は、その一部に時間外労働等に対する対価が含まれているとしても、
  通常の労働時間の賃金である歩合給として支払われるべき部分を相当程度含んでいる。
  
  　割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働の対価に当たるか明らかでない。
  　↓
  　本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法３７条
  の割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。
  　↓　
  　本件においては労基法３７条の定める割増賃金が支払われたとはいえない。
  
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• 社員から会社に対する逆求償請求事案

  
  最高裁第２小法廷判決：令和２年２月２８日
  
  
  　事案：社員（被用者）が会社（使用者）の業務執行としてトラックを運転中に
  　　起こした交通事故に関し、社員が第三者に加えた損害を賠償したことから、
  　　会社に対し求償金の支払いを求めました。
  
  　原審：次のような理由から社員の求償請求を認めませんでした。
  
  　　�@　社員が第三者に損害を加えた場合は、それが使用者（会社）の事業の執行
  　　　についてされたものであっても、不法行為者である社員が損害全額について
  　　　賠償し、負担すべきである。　　　
  
  　　�A　民法７１５条１項の規定は、第三者が社員から損害賠償金を回収できない
  　　　事態に備え、会社にも損害賠償義務を負わせることとしたにすぎず、社員の
  　　　求償を認める根拠にはならない。
  　　　　↓
  　　　　社員は、損害を賠償したとしても、共同不法行為者間の求償として認められる
  　　　場合等を除き、求償することはできない。
  
  　最高裁：損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、求償する
  　　　ことができるとしました。
  
  　　�@　民法７１５条１項の使用者責任は、会社が社員の活動によって利益を上げる
  　　　関係にあることや、自己の事業範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を
  　　　増大させていること
  　　　　↓
  　　　　損害の公平な分担という見地から、事業の執行について社員が第三者に加えた
  　　　損害を会社に負担させることにしたもの
  　　　　↓
  　　　　このような使用者責任の趣旨からすれば、会社は第三者に対して損害賠償義務を
  　　　負うのみならず、
  
  　　　　社員との関係でも損害の全部または一部について、負担すべき場合がある。
  
  　　�A　会社が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には、
  　　　諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる限度に
  　　　おいて、社員に対して求償できる。
  　　　　↓
  　　　　逆に、社員が第三者に損害を賠償した場合も、会社の損害負担は同様にすべき。
  
  　　　　その際に考慮すべき「諸般の事情」とは、次のようなものである。
  
  　　　　　　ア　会社の事業の性格、規模、施設の状況
  
  　　　　　　イ　社員の業務内容、労働条件、勤務態度
  
  　　　　　　ウ　加害行為の態様
  
  　　　　　　エ　加害行為の予防又は損失の分散についての会社の配慮の程度
  
  ＜使用者（会社）が賠償した場合の、被用者（社員）に対する求償についての
  最高裁判例はありましたが、逆の被用者が賠償した場合の使用者に対する求償、
  いわゆる「逆求償」についての初めての最高裁の判断です。＞
  
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• 遺産分割後の価額支払請求事案

  
  最高裁第３小法廷判決：令和元年８月２７日
  
  
  　事案：　被相続人の妻と子が、遺産分割協議を成立させた後に、被上告人が
  　　被相続人の子であることを認知する旨の判決が確定しました。
  　　認知により相続人になった者が、遺産の分割を請求しようとする場合、
  　　　本件では、既に遺産分割協議に際し、相続債務の負担に関する合意がされ、
  　　相続債務の一部が弁済されていました。
  　　　民法910条により被上告人に支払われるべき価額の算定の基礎となる
  　　遺産の価額は、遺産のうち積極財産の価額から消極財産の価額を控除した
  　　ものにすべきかどうかが争われました。
  　
  　最高裁は、次の通り判断しました。
  
  ・　民法910条は、相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする
  　場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには
  　当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払い請求を認めることに
  　よって、利害の調整を図るものである。
  
  ・　同条に基づき支払われるべき価額は、当該分割等の対象とされた遺産の価額を
  　基礎として算定するのが、当事者間の衡平の観点から相当である。
  　遺産の分割は、遺産のうち積極財産のみを対象とするものであって、消極財産
  　である相続債務は、認知された者を含む各共同相続人に当然に承継され、
  　遺産の分割対象とならないものである。
  
  ・　相続の開始後認知によって相続人となった者が、遺産の分割を請求しようとする
  　場合において、他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは
  　民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、
  　当該分割の対象とされた積極財産の価額であると解するのが相当である。
  
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• 再転相続における相続放棄の起算点が争われた事案

  
  最高裁第２小法廷判決：令和元年８月９日
  
  
  
  　事案：伯父から借金を相続した父親が承認も放棄もせずに死亡し、その子
  が、知らない間に伯父の借金の二次相続人になってしまいました。
  このような場合、相続放棄できる期限である３ヶ月の起算点はいつになる
  のかが争われました。
  
  原審も最高裁もいずれも本件相続放棄は熟慮期間内にされたものとして有効
  であるとしましたが、民法９１６条の解釈適用が別れました。
  
  　原審の大阪高裁：民法９１６条にいう「その者の相続人が自己のために
  相続の開始があったことを知った時」とは、丙（子）が自己のために乙
  （父）からの相続が開始したときをいう。
  
  　しかしながら同条は、乙（父）が甲（伯父）の相続人であることを知って
  いたが、相続の承認または放棄をしないで死亡した場合を前提にしていると
  解すべきであり、乙（父）が甲（伯父）の相続人になったことを知らずに
  死亡した本件に同条は適用されないとしました。
  
  　本件では、甲（伯父）からの相続に係る熟慮期間の起算点は民法９１５
  条によって定まるとし、
  　丙（子）が、乙（父）から甲（伯父）の相続人としての地位を承継した事
  実を知った時から起算され、本件相続放棄は熟慮期間内にされたものとして
  有効であるとしました。
  
  　最高裁は、次の通り判断しました。
  １　相続の承認又は放棄の制度は、相続人に対し、被相続人の権利義務の承継を
  強制するのではなく、被相続人から相続財産を承継するか否かについて選択
  する機会を与えるものである。
  
  　熟慮期間は、相続人が相続について承認又は放棄のいずれかを選択するに
  当たり、被相続人から相続すべき相続財産につき、積極及び消極の財産の有
  無、その状況等を調査し、熟慮するための期間である。
  
  　民法９１５条の熟慮期間の起算点は、原則として、相続人が相続開始の原
  因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時をいうもの
  と解される。
  
  ２　民法９１６条の趣旨は、乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで
  死亡したときには、乙から甲の相続人としての地位を承継した丙において、
  甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することになるという
  点に鑑みて、
  　丙の認識に基づき、甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めるこ
  とによって、丙に対し、甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選
  択する機会を保障することにあるというべきである。
  
  　再転相続人である丙は、自己のために乙からの相続の開始があったことを
  知ったからといって、当然に乙が甲の相続人であったことを知りうるわけで
  はない。
  
  　また、丙は、乙からの相続により、甲からの相続について承認又は放棄を
  選択し得る乙の地位を承継しているが、丙自身において、乙が甲の相続人
  であったことを知らなければ、甲からの相続について承認又は放棄のいずれ
  かを選択することはできない。
  
  　丙が、乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかか
  わらず、丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって、甲
  からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは、丙に対し、甲からの
  相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法９１６
  条の趣旨に反する。
  
  　結論として：民法９１６条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始
  があったことを知った時」とは、相続の承認または放棄をしないで死亡した
  者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認ま
  たは放棄をしなかった相続（ここでは伯父の相続）における相続人としての
  地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきであるとしま
  した。
  
  ＜事情もわからないうちに近親者の多額の負債を負わされるのは妥当では
  ありません。当然の結論です。＞
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• 相続財産についての情報と相続人の「個人に関する情報」との
  関係について争われた事案

  
  最高裁第１小法廷判決：平成３１年３月１８日
  
  
  事案：被相続人が銀行へ提出した印鑑届書の情報は、個人情報保護法の保有個人データに
  　該当するとして、相続人から印鑑届書の写しの交付を求めた事案
  　
  　
  原審：広島高裁岡山支部
  　印鑑届書の情報は、預金契約上の地位についての情報であって、被相続人に関するものとして
  　「個人に関する情報」であったから、相続人等として預金契約上の地位を取得した相続人に
  　関するものとして「個人に関する情報」に当たるとして請求を認めました。
  　
  　
  最高裁：しかし、最高裁は、次のような理由から、原判決を破棄しました。
  　一般論として
  　　ある情報が特定の個人に関するものとして、個人情報保護法の「個人に関する情報」に当たるか
  　否かは、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべきものである。
  　　相続財産についての情報が、被相続人に関するものとして，その生前に「個人に関する情報」に
  　当たるものであったとしても、そのことから直ちに当該情報が当該相続財産を取得した相続人
  　又は受遺者に関するものとして「個人に関する情報」に当たるということはできない。
  
  　本件では
  　・印鑑届書にある銀行印の印影は、相続人が預金契約上の地位を取得したからといって、相続人の
  　銀行取引において使用されることとなるものではない。
  　・印鑑届書のその余の記載も相続人と銀行との銀行取引に関するものとはいえない。
  　・その他、印鑑届書の内容が相続人に関するものであるというべき事情はうかがわれないから、
  　相続人に関するものとして「個人に関する情報」に当たるということはできない。
  
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• マンションにおける電力契約について、高圧受電方式を
  採用する決議の効力に関して争われた事案

  
  最高裁第３小法廷判決：平成３１年３月５日
  
  
  事案：マンション団地（計544戸）の管理組合は、高圧の電力供給を受けると割安になる
  　高圧受電方式の導入を総会決議で可決した。そして規約変更・細則により、同方式以外での
  　電力供給を認めず、従前の個別契約の解約を義務付けた。しかし、区分所有者2名が既存契約の
  　解約に応じず、団地全体一括しての契約との条件をクリアできずに新方式の導入はできなかった。
  　そこで、個別契約の解約申入れをすべきという決議又は細則に基づく義務に違反し
  　電気料金が削減されない損害を被ったという不法行為に基づく損害賠償が求められた。
  　
  原審：札幌高裁
  ・　マンションにおいて電力は共用部分である電気設備を通じて専有部分に供給されており、
  　決議は共用部分の変更または管理に関する事項を決するなどして高圧受電方式への変更を
  　することとしたものであって、その変更をするためには個別契約の解約が必要である。
  　したがって、決議は有効であり、個別契約の解約申入れをしないことは、決議に基づく
  　義務に違反し、不法行為になるとしました。
  　
  最高裁：しかし、最高裁は、次のような理由から、個別契約の解約申入れをする義務を
  　　　負わないとしました。
  
  ・ア　決議には、共用部分の変更または管理に関する事項を決する部分があるものの　
  　　個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を　　
  　　決するものであって、共用部分の変更または管理に関する事項を決するものではない。　　
  
  ・イ　細則が個別契約の解約申入れをする義務付ける部分を含むとしても、区分所有法30条1項の　
  　　「団地建物所有者相互間の事項」を定めたものではなく、同項の規約として有効とはいえない。
  
  　　なぜなら　　　
  　　・　個別契約を解約するか否かは、直ちに他の専有部分の使用又は共用部分等の管理に影響を
  　　及ぼすものではない。
  
  　　・　高圧受電方式への変更は専有部分の電気料金を削減しようとするものにすぎず、この変更が
  　　なされないことにより、専有部分の使用に支障が生じ、または共用部分等の適正な管理が
  　　妨げられることとなる事情はうかがわれない。 　　
  
  　＜最高裁は、管理組合の高圧受電方式の導入についての本件決議の効力は専有部分に及ばない、
  　　専有部分の既存契約を解約する義務はないという判断をしました。＞
  
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• 養親の相続財産全部の包括受遺者が提起する養子縁組無効の
  訴えにおいて訴えの利益があるか争われた事案

  
  最高裁第３小法廷判決：平成３１年３月５日
  
  
  事案：被相続人から包括遺贈を受けた者が、被相続人と養子縁組をした者から、
  　遺留分減殺請求を提起された。その養子が死亡し、妻が訴訟を承継した。
  
  　包括受遺者が、検察官に対し、養子縁組の無効確認を求めた。
  　
  原審：高松高裁
  ・　養親の相続財産全部の包括遺贈を受けた者は、養親の相続人と同一の権利義務を有し、
  　養子から遺留分減殺請求を受け得る。
  　　　↓
  　養親の相続に関する法的地位を有するものといえ
  　養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受ける者に当たる。
  　　　↓
  　養子縁組の無効の訴えにつき法律上の利益がある。
  　
  最高裁：しかし、最高裁は、次のような理由から、法律上の利益がないとしました。
  
  ・ア　養子縁組無効の訴えは、縁組当事者以外の者も提起することができるが、　　
  　　　無効であることにより、自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は、　　　　
  　　　訴えにつき法律上の利益を有しないと解される。　　　　
  
  ・イ　遺贈は、遺言によって受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示であるから、　　
  　　　　↓　　
  　　　包括遺贈を受けた者は、養子から遺留分減殺請求を受けたとしても、
  　　　縁組無効により自己の財産上の権利義務に影響を受けるに過ぎない。　　　　　
  
  　＜最高裁は、法律上の利益について、身分関係に関する地位と財産関係に関する地位とを
  　　区別して、限定的な判断をしました。＞
  
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• 夫が妻と不貞行為に及んだ第三者に対し離婚に伴う
  慰謝料請求をすることができるかが争われた事案

  
  最高裁第３小法廷判決：平成３１年２月１９日
  
  　事案：(元）夫が、(元）妻と不貞行為に及んだ男性に対し、不貞行為により
  離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、
  離婚に伴う慰謝料等の支払を求めて争われました。
  
  　原審：東京高裁
  ・男性と妻との不法行為により婚姻関係が破綻して離婚するに至ったものであるから、
  男性は、両者を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負い、夫は男性に対し
  離婚に伴う慰謝料を請求できるとしました。
  
  　最高裁：しかし、最高裁は、次のような理由から、離婚に伴う慰謝料を請求することは
  できないとしました。
  
  ・ア　夫婦が離婚するに至るまでの経緯は、夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、
  　　協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来夫婦の間で　
  　　決められるべき事柄である。
  
  ・イ　夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより夫婦の婚姻関係が破綻して
  　　離婚するに至ったとしても、
  　　不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして
  　　直ちに離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。
  
  ・ウ　第三者が離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うのは、第三者が、
  　　単に不貞行為に及ぶにとどまらず、夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に
  　　不当な干渉をするなどして離婚のやむなきにいたらしめたものと評価すべき特段の事情
  　　があるときに限られる。　　　
  
  　＜不貞行為を理由とする不法行為責任　と　離婚させたことを理由とする不法行為責任を　
  　区別して、ウのような特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない
  　という判断がなされたものです。＞
  
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• 生活保護受給中の者が自動車を購入するにあたり、
  住居及び生計を別にする弟が名義を貸した場合に、
  弟が自賠法の運行供用者にあたるかが争われた事案

  
  最高裁第１小法廷判決：平成３０年１２月１７日
  
  　事案：生活保護受給中の姉が自動車を購入することにしたが、自己名義で所有すると
  生活保護を受けることができなくなるおそれがあると考え、弟に名義貸与を依頼し、弟は、
  承諾した。
  　姉がその自動車で事故を起こし、弟が自賠法３条の運行供用者の責任を問われた。
  
  　原審：広島高裁岡山支部
  ・姉と弟は、事故当時住居及び生計を別にし、疎遠であった。弟は、その自動車を使用した
  ことはなく、保管場所も知らず、購入代金、維持費等を負担したこともなかった。
  　　↓
  ・弟は単に名義を貸しただけで、その自動車の運行を事実上支配、管理していたと認めることは
  できないから運行供用者に当たらないとした。
  
  　最高裁：しかし、最高裁は、次のような理由から、運行供用者に当たるとしました。
  
  ・ア　姉は、生活保護受給中で、自己名義で自動車を所有すると生活保護を受けることが
  できなくなるおそれがあると考え、弟に名義貸与を依頼した。
  　　　↓
  　弟の姉に対する名義貸与は、事実上困難であった姉の自動車の所有及び使用を可能にし、
  運転に伴う危険の発生に寄与するものといえる。
  
  ・イ　弟が姉の依頼を拒むことができなかったなどの事情もうかがわれない。　
  　　　↓　　
  　住居及び生計を別にしていたなどの事情があったとしても、弟は、姉による自動車の運行を　　　
  事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう
  監視、監督すべき立場にあったというべきである。　
  　　
  　＜自動車購入に際して名義を貸すということは、運行供用者責任を問われる可能性が
  相当高いということに注意する必要があります。＞
  
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• 地方公共団体の男性職員が、勤務時間中に訪れた
  コンビニの女性従業員に対してわいせつな行為等を
  したことを理由とする停職処分の取消しを求める事案

  
  最高裁第３小法廷判決：平成３０年１１月６日
  
  
  　事案：普通地方公共団体の男性職員が、勤務時間中に訪れたコンビニで、その女性従業員に対して
  わいせつな行為等をしたことを理由に、停職6月の懲戒処分を受けけましたが、その処分が裁量権の逸脱、
  またはこれを濫用した違法があるかが争われました。
  
  　原審：大阪高裁
  ・　停職6月の処分は重きに失するものとして社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱、または、
  　これを濫用したものであり、違法であるとしました。
  
  　最高裁：しかし、最高裁は、次のような理由から、原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する
  　　　　法令の解釈適用を誤った違法があるとしました。
  
  　�@　女性従業員が終始笑顔で行動し、身体的接触に抵抗を示さなかったとしても、客との間の　
  　　トラブルを避けるためのものであったとみる余地がある。　
  　　
  　�A　女性従業員と店舗オーナーが処罰を望まないとしても、事情聴取の負担や店舗の営業への
  　　悪影響を懸念したことによるとも解される。
  
  　�B　男性職員は、以前から店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており、これを
  　　理由の一つとして退職した女性従業員もいた。
  　
  　�C　勤務時間中に制服を着用してなされたもので、複数の新聞で報道されるなどしており、住民の　　
  　　信頼が大きく損なわた。　
  
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• 共同相続人間においてなされた無償による相続分の譲渡が
  民法９０３条１項に規定する贈与に当たるかどうかが争われた事案

  
  最高裁第２小法廷判決：平成３０年１０月１９日
  
  　事案：父親死亡の際の遺産分割において、母親から共同相続人の子 が相続分の譲渡を
  受けた場合、母親死亡による相続において、その相続分の譲渡が遺留分算定の基礎となる財産額
  に算入すべき贈与に当たるかどうかが争われました。
  
  　原審：東京高裁は、次のような理由から、遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与に
  当たらないとしました。
  
  ・ア　相続分の譲渡による相続財産の持分の移転は、遺産分割が終了するまでの暫定的な
  　　ものであり、最終的に遺産分割が確定すれば、その遡及効によって、相続分の譲受人は
  　　相続時に遡って被相続人から直接財産を取得したことになるから、譲渡人から譲受人に　
  　　相続財産の贈与があったとは観念できない。
  
  ・イ　相続分の譲渡は、必ずしも譲受人に経済的利益をもたらすものとはいえず、譲渡に係る
  　　相続分に経済的利益があるか否かは、当該相続分の積極財産及び消極財産の価額等を
  　　考慮して算定しなければ判明しないものである。
  
  　最高裁：しかし、最高裁は、次のような理由から、「共同相続人間においてされた無償による
  相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した
  当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き、譲渡をした者の相続において、
  民法９０３条１項に規定する「贈与」に当たる。」としました。
  
  ・ア　共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは、遺産全体に対する割合的な持分が移転し、
  　個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずる。　
  　
  ・イ　相続分の譲受人は、従前からの相続分と譲渡に係る相続分とを合計した相続分を有する者
  　として、遺産分割手続等において、その合計に相当する価額の相続財産の分配を求めることが　
  　できることとなる。
  
  ・ウ　このように、相続分の譲渡は、譲渡人から譲受人に対し、経済的利益を合意によって
  　移転するものといえる。　
  
  　＊　この判決は、遺留分減殺請求に関して「贈与」に当たるとしたもので、税務面について
  判断したものではありません。税務上は、このような場合には従前より「贈与税」の負担を　
  求められることはありません。
  　
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• 被害者の自賠法１６条１項の直接請求権と政府が労災保険給付により
  代位取得する直接請求権が競合し、両請求権の合計額が自賠責保険の保険金額を
  超える場合どちらが優先するかが争われた事案

  
  最高裁第１小法廷判決：平成３０年９月２７日
  
  　事案：被害者はトラック乗務員として運転中衝突事故にあった。
  被害者に対し、業務災害であるとして労災保険給付が行われたことから、
  被害者の保険会社に対する直接請求権は、労災給付の限度で国に移転した。
  　
  　被害者は、労災給付を受けてもなお補填されない損害について、保険会社に請求した。
  　　　↓
  　保険会社は、被害者の直接請求権の額と、国に移転した直接請求権の額の合計が
  自賠責保険金額を超える場合には、請求額に応じて案分となると主張した。
  　　
  
  　最高裁：最高裁は、以下の理由で、被害者は、国に優先して自賠責保険の保険会社から
  　　　　　自賠責保険金額の限度で損害賠償額の支払いを受けることができるとしました。
  
  ・ア　自賠法１６条１項は、保有者の損害賠償の責任が発生したときに、被害者は少なくとも　
  自賠責保険金額の限度では確実に損害の填補を受けられることにして、その保護を図るもの
  　　　↓
  被害者の未填補損害の額が自賠責保険金額を超えるにもかかわらず、自賠責保険金額全額について
  支払いを受けられないという結果が生ずることは法の趣旨に沿わない。
  
  ・イ　労災保険法では、第三者の行為によって生じた事故について労災保険給付が行われた　　
  場合には、その給付の価額の限度で、受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権は
  国に移転するものとしている。　　　　
  
  　その理由は
  　　　↓
  　労災給付によって受給権者の損害の一部が填補される結果となった場合に、
  　　・受給権者が填補された損害の賠償を重ねて第三者に請求することを許すべきではない。
  　　・損害賠償責任を負う第三者は、填補された損害について賠償責任を免れる理由はない。
  
  　法の目的は　
  　　労働者の負傷等に対して迅速かつ公正な保護をするため必要な保険給付を行うこと
  　　　↓　
  　　政府が行った労災保険給付の価額を国に移転した損害賠償請求権によって賄うことが
  　主目的ではない。
  　
  ・　結論として、国に移転した直接請求権が行使されることによって、被害者の未填補損害に
  　ついての直接請求権の行使が妨げられることは法の趣旨に沿わない。　
  　　
  　＜国との案分ではなく、被害者の直接請求権が国に優先するという判断をしたものです。＞
  
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• 正社員と契約社員との待遇差が、不合理な格差に
  当たるかどうかが争われた事案

  
  最高裁第２小法廷判決：平成３０年６月１日
  
  
  事案：物流会社でトラック運転手として働く正社員と契約社員とが同じ仕事
  をした場合、手当などの待遇差があるのは労働契約法が禁じる不合理な格差
  に当たるかどうかが争われました。
  
  原審：大阪高裁は、無事故手当・作業手当・給食手当・通勤手当については
  待遇に格差があるのは不合理であるとしましたが、住宅手当と皆勤手当につ
  いては不合理ではないとしました。
  
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• グループ会社における子会社の従業員によるセクハラについて、
  親会社の責任の有無が争われた事案

  
  最高裁第１小法廷判決：平成３０年２月１５日
  
  　事案：親会社が、グループ会社における法令遵守体制を整備し、その相談窓口を設け
  相談への対応を行っていた場合において、親会社が、子会社の従業員によるセクハラに
  係る相談の際に求められた対応をしなかったことについて、信義則上の義務違反が
  あったかどうかが争われました。
  
  
  　原審：名古屋高裁は、次のような理由から、信義則上の義務違反があったとして、
  債務不履行に基づく損害賠償責任があるとしました。
  
  ・ア　親会社は、法令遵守体制を整備していたことからすると、グループ会社の全従業員
  　　に対して、直接又はその所属する各グループ会社を通じて相応の措置を講ずべき
  　　信義則上の義務を負う。　
  　　　被害者を雇用していた勤務先子会社において、使用者が就業環境に関して労働者からの
  　　相談に応じて適切に対応すべき義務（雇用契約上の付随義務）に基づく対応を怠っている
  　　以上、親会社は信義則上の義務を履行しなかったものと認められる。
  
  ・イ　親会社自身も、別の従業員が被害者のために、相談窓口に対し、被害者に対する事実確認
  　　等の対応を求めたにもかかわらず、怠ったことで被害者の恐怖と不安を解消させなかった。
  
  　最高裁：しかし、最高裁は、次のような理由から、信義則上の義務違反はないとしました。
  
  ・ア　被害者は、勤務先子会社に雇用され、その指揮監督下で働いていたもので、親会社が
  　被害者に対し、指揮監督する立場にあったとか、実質的に労務提供を受ける関係になかった。
  　　法令遵守体制の具体的内容が、子会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務を、
  　親会社自らが履行し、又は親会社の指揮監督の下で子会社に履行させるものであったと
  　みることはできない。
  　　従って、子会社が、本件付随義務に基づく対応を怠ったことのみをもって、
  　親会社の信義則上の義務違反は問えない。
  　
  ・イ　親会社は、法令遵守体制の一環として相談窓口を設け、相談への対応を行っていた。
  　その趣旨はグループ会社の業務の適正の確保等を目的として、相談窓口における相談への対応を
  　通じて法令等違反行為を予防し、又は対処することにある。相談窓口への申し出の具体的状況
  　いかんによっては、相談等の内容に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合がある。
  
  　　しかしながら、本件では、相談内容が、被害者が退職した後に、グループ会社の事業場外で
  　行われた行為に関するものであり、加害者従業員の職務執行に直接関係するものではないこと、
  　申出当時、被害者と加害者とは同じ職場で就労しておらず、行為から８ヶ月以上経過していた。
  　　以上のような事情から、信義則上の義務違反は問えないとしました。　 　
  
  　親会社が、法令遵守体制を整え、相談窓口を設けた場合、そこに寄せられた相談に対しては、
  子会社の従業員のセクハラ被害に関するものでも、当然ですが、適切な対処が必要です。　
  
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• マンション管理組合の理事長に対し、理事会で
  その理事長職を解くことができるか争われた事案

  
  最高裁第１小法廷判決：平成２９年１２月１８日
  
  　事案：マンション管理組合において、理事の互選により選任された理事長につき
  理事長の地位を喪失させ、理事長から理事に変更するには、規約に明文化されていない場合
  総会の決議が必要かそれとも理事会の決議で理事長職を解くことができるかが争われました。
  
  　原審の福岡高裁は、規約では、理事長は理事の互選により選任することを定めているが
  解任についての定めではないこと、理事長を管理組合の役員とし、役員の解任は
  総会の決議事項とすると定めていること等から、理事会決議で、理事長から理事に変更する
  決議は無効としました。
  
  　しかし、最高裁は、マンションの以下のような規約について、
  　このような規約は、理事長を理事が就く役職の1つと位置づけた上、総会で選任された理事に対し、
  原則として、その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。
  　そうすると、このような規約は、理事の互選により選任された理事長について
  理事の過半数の一致により理事長の職を解き、別の理事を理事長に定めることも
  総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが、区分所有者の意思に合致するというべきとしました。
  
  規約
  ・理事長を区分所有法に定める管理者とする
  ・役員である理事に理事長等を含む　
  ・役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならない
  ・理事は組合員のうちから総会で選任する
  ・理事の互選により理事長を選任する　
  
  　このような管理規約は一般的なものであると思われますので、別段の定めがない限り、
  理事会の決議で理事長を解任することができると考えられます。
  
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• 共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、
  相続の際、当然に相続分に応じて分割されることはない
  とされた事案

  
  最高裁第１小法廷判決：平成２９年４月６日
  
  　事案：相続人が信用金庫に対して有していた、普通預金債権、定期預金債
  権及び定期積金債権について、相続人が相続分に応じて分割取得したなどと
  主張して法定相続分相当額の支払い等を求めました。
  
  　共同相続された普通預金債権については、平成２８年１２月１９日の最高
  裁大法廷決定で、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることは
  ないとされました。
  
  　本判決では、定期預金についても同様に考えるべきだとしました。
  その理由は、次のようなものです。
  
  ・　定期預金は、預入れ１口ごとに１個の預金契約が成立し、預金者は解約を
  　しない限り払い戻しをすることができないので、契約上その分割払い戻しが
  　制限されているものといえること、そしてその制限は定期預金の契約の要素
  　というべきであること、
  
  ・　仮に定期預金債権が相続により分割されると解したとしても、契約上その
  　分割払い戻しが制限されている以上、共同相続人は共同して払戻しを求め
  　ざるを得ず、単独で払い戻しを受けることはできないので、相続により分割
  　されると解する意義は乏しいこと。
  
  　定期積金についても、預金者が解約しない限り給付金の支払をうけること
  ができないことから、同様であるとしました。
  
  　本判決は、先の大法廷決定の流れにそって、定期預金債権及び定期積金債
  権についても、相続の際、当然に相続分に応じて分割されることはないと
  したものです。
  
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• 検索エンジンに対し、自分が逮捕された事実等の削除を請求した事案

  
  最高裁第３小法廷判決：平成２９年１月３１日
  
  　事案：児童買春の罪で有罪判決を受けた男性が、県名と氏名で検索すると
  その事実が検索結果として出てくることから、検索事業者に対して検索結果
  の削除を求める仮処分の申し立てをしたものです。
  
  　最高裁：結論としては、削除請求を認めませんでした。
  
  一般論としては
  　ア　当該事実を公表されない法的利益と
  
  　イ　当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情
  
  　これを比較衡量して判断すべき、そして
  　　　↓　
  　当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には　
  検索事業者に対し、削除することを求めることができるとしました。
  
  　考慮される諸事情として次のものが挙げられています。
  　・当該事実の性質及び内容
  　・プライバシーに属する事実が伝達される範囲と具体的被害の程度
  　・社会的地位や影響力
  　・記事等の目的や意義
  　・記事等が記載された時の社会的状況とその後の変化
  　・記事等において当該事実を記載する必要性
  
  本件事案については
  　ア　児童買春をしたとの被疑事実に基づいて逮捕されたという本件事実は
  　　他人にみだりに知られたくないプライバシーに属する事実である。
  
  　イ　児童買春は、児童に対する性的搾取及び性的虐待で、社会的に強い
  　　非難の対象とされ、罰則を持って禁止されている。
  　　　　↓
  　　　今なお公共の利害に関する事項である。
  
  　　・本件検索結果は、県名及び氏名を条件とした場合の検索結果の一部である
  　　　　↓
  　　　伝達される範囲はある程度限られている
  
  　請求者が妻子と共に生活し、罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すこと
  　なく民間企業で稼働していることがうかがわれるなどの事情があるにしても
  
  　本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。
  
  ＜検索エンジンに対して、検索結果の削除を求めるのは、相当ハードルが高い
  という印象です。＞
  
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• 相続税の節税目的での養子縁組が無効か争われた事案

  
  最高裁第３小法廷判決：平成２９年１月３１日
  
  　事案：税理士等から、養子縁組をした場合に遺産に係る基礎控除額が増え
  るなど相続税の節税効果がある旨の説明を受けたのち、養子縁組がなされた
  が、その場合縁組をする意思を欠くものとして無効かどうかが争われました。
  
  　原審の東京高裁は、本件養子縁組は専ら相続税の節税のためにされたもの
  であるとした上で、民法８０２条１号にいう「当事者間に縁組をする意思が
  ないとき」に当たるとして、養子縁組を無効としました。
  
  　しかし、最高裁は、相続税の節税のために養子縁組をすることは、節税効
  果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、「相続税
  の節税の動機」と「縁組をする意思」とは併存し得るものであるとしました。
  
  　したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、
  直ちに民法８０２条１号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に
  当たるとすることはできないとしました。
  
  
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• ・相続の際、相続人の受け取り分を決める遺産分割
  の対象に、預貯金が含まれるかが争われた事案

  
  
  最高裁大法廷決定：平成２８年１２月１９日
  
  　事案：遺産として、不動産のほかに預貯金約４０００万円がありました。
  二人の相続人のうち一人だけが約５５００万円の生前贈与を受けていました。
  　そこで、預貯金約４０００万円は、
  ・遺産分割の対象にはならず、法定相続分に従って、二人の相続人に
  約２０００万円ずつ分けられるか、
  ・それとも遺産分割の対象になり、生前贈与を考慮して預貯金の受取額を
  決めるかが問題になりました。
  
  　従来の判例では、遺産のうち、不動産や株式などは当然遺産分割の対象と
  なりますが、預貯金は法定相続分に応じてそれぞれ相続人のものになるとさ
  れていました。
  　しかし、家庭裁判所の遺産分割調停の実務においては、相続人全員の同意
  を得たうえで預貯金も遺産分割の対象としてきました。　
  　
  　原審：原審は、預貯金は、相続開始と同時に当然に相続人が相続分に応じて
  分割取得し、相続人全員の合意がない限り、遺産分割の対象とならないなどと
  判断しました。
  
  　最高裁：最高裁は、概ね以下のように判断し従来の判例を変更しました。
  
  ・　遺産分割の仕組みは、共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするた
  　め、遺産分割の対象財産は幅広く解することが望ましいこと。
  ・　現金のように、評価についての不確定要素が少なく、遺産分割の調整に資
  　する財産を遺産分割の対象とする要請もあること。
  ・　預貯金は、預金者においても、確実かつ簡易に換価することができるとい
  　う点で現金との差をそれほど意識させない財産であると受け止められている
  　こと。
  ・　その上で各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された
  　普通預金債権、通常貯金債権、定期預金債権は、相続開始と同時に当然に
  　相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となると解する
  　のが相当としました。
  
  　この度の判例変更により、銀行は、遺産分割が終了するまでは、相続人からの
  法定相続分内の引出請求について、慎重になることが予想されます。
  
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• 有期労働契約者の無期労働契約への移行が認められるかどうか
  争われた事案

  
  最高裁第１小法廷判決：平成２８年１２月１日
  
  事案の概要：私立大学の教員に係る期間１年の有期労働契約が、３年の更新限度期間の
  満了後に期間の定めのない無期労働契約に移行したか争われた事案
  
  原審：福岡高裁は、３年は試用期間であり、特段の事情がない限り、無期労働契約に移行
  するとの期待に客観的な合理性があるとして、無期労働契約に移行したものと認めました。
  
  最高裁：原審を破棄し、無期労働契約へ移行したとはいえないとしました。
  理由は次の通りです。
  �@　３年の更新限度期間の満了時に労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは、
  　これを希望する教員の勤務成績を考慮して、大学が必要であると認めた場合である旨が明確に
  　定められていて、教員もこのことを十分に認識した上で労働契約を締結したものとみることが
  　できること
  �A　大学の教員の雇用については、一般に流動性のあることが想定されること
  �B　学校法人が運営する三つの大学において、３年の更新限度期間の満了後に労働契約が期間の
  　定めのないものとならなかった教員も複数に上っていたことなど
  
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• ・会社の歓送迎会終了後残業のため会社に戻る途中、
  交通事故で死亡した男性が労働災害と認められた事案

  
  
  最高裁第２小法廷判決：平成２８年７月８日
  
  　事案：会社の歓送迎会に参加した男性が、中国人研修生らをアパートに送
  った上で残業に戻るため、車を運転し、アパートに向かう途中交通事故によ
  り死亡しました。
  　男性の妻が、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付・葬祭料の支給
  を申請しましたが、労働基準監督署長は、死亡が業務上の事由によるものに
  当たらないとして支給しない旨の決定をしました。
  
  　労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付・葬祭料の支給の請求には「業
  務上の事由」によることが必要とされています。
  その「業務上の事由」によるかどうかが争われました。
  　
  　原審は、会社の従業員有志によって開催された私的な会合であること、男
  性が中途から参加したこと、歓送迎会に付随する送迎のために任意に行った
  運転行為であり、会社の支配下にある状態でされたものと認められないとし
  て、業務上の事由によるものとはいえないと判断しました。
  
  　最高裁は、以下のような事情を総合的に判断して、業務上の事由による災
  害に当たるとしました。
  
  　男性は、一旦は参加を断ったが、上司の意向で参加しないわけにはいかな
  くなったこと。
  
  　歓送迎会は、会社の従業員と中国人研修生との親睦を図るためのもので、
  当時の従業員及び研修生らの全員が参加し、その費用は会社の経費で支払わ
  れるなど、会社の事業活動に密接に関連して行われたこと。
  
  　男性は、残業を一時中断して歓送迎会に参加し、会終了後残業を再開するた
  め運転して会社に戻るに当たり、研修生らをアパートに送っていた際に本件
  事故に遭ったこと。
  
  　これらの諸事情を総合し、男性は、本件事故の際、なお会社の支配下に
  あったというべきであり、本件事故による男性の死亡は、業務上の事由に
  よる災害に当たるとしました。
  
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• 認定司法書士が、債務整理について代理することができる範囲が
  争われた事案

  
  最高裁第1小法廷判決：平成２８年６月２７日
  
  　事案：債務整理について、認定司法書士が代理することができる範囲を超
  えて、違法に裁判外の和解を行い、これに対する報酬を受領したなどとして
  不法行為による損害賠償請求権に基づき、その報酬相当額の支払等を求めた
  ものです。
  
  　認定司法書士には、訴訟の目的の価額が140万円を超えない比較的少額のも
  のについては、簡裁民事訴訟手続の代理を弁護士に依頼することが困難な場
  合が少なくないことから、認定司法書士の専門性を活用して手続の適正かつ
  円滑な実施を図り、紛争の解決に資するために訴訟手続の代理権が認められ
  ています。
  　同様の趣旨から、裁判外の和解についても代理することが認められています
  が、その範囲も、簡裁民事訴訟手続におけるのと同一の範囲内のものと解すべき
  であるとされました。
  　
  　本件のような複数の債権を対象とする債務整理の場合でも、通常債権ごと
  に争いの内容や解決の方法が異なるし、最終的には個別の債権の給付を求め
  る訴訟手続が想定されることなどから、裁判外の和解について認定司法書士
  が代理することができる範囲は、個別の債権ごとの価額を基準として定めら
  れるべきとされ、
  
  　債務整理を依頼された認定司法書士は、個別の債権の価額が140万円を超え
  る場合には、その債権に係る裁判外の和解について代理することができない
  としました。
  
  
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  • 「花押」での遺言は無効とされた事案

    
    最高裁第２小法廷判決：平成２８年６月３日
    
    　事案：戦国武将などが使っていたいわゆる「花押」が、遺言書に必要な印
    章による押印の代わりになるかどうかが争われた事案。
    　なお、「花押」は、現在でも閣議決定の際に首相や大臣が、筆で花押を書
    くことが慣例になっています。署名を簡略な形に変化させたもので、その人
    独自の形状に模様化させたものです。
    　原審は、遺言者がこれまでも花押を使ってきた使用状況や、花押は文書の
    作成の真正を担保する役割を担っていることなどから、真意の確保に欠ける
    とは言えないとして押印の要件を満たすとしました。
    
    　民法９６８条１項は、本人自筆の遺言書（自筆証書遺言）には、自筆の署名
    と押印の両方が必要としています。
    
    　本件では、琉球王国の名家の末裔に当たる沖縄県の男性が残した遺言書で、
    家督及び財産を次男に継承させる旨書かれていて、押印の代わりに花押が書
    かれていました。
    
    　最高裁は、花押を書くことは、印章による押印とは異なるから、花押は民法
    の押印の要件を満たさないとしました。
    
    　押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同
    一性及び真意を確保するととともに、重要な文書については作成者が署名し
    た上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国
    の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解される。
    　しかし、花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識
    が存するものとは認めがたい。
    　ということです。
    
    　なお、従来の判例の流れとしては、押印については、拇印でも有効とされる
    など、遺言者の真意を確認できれば広く認めていく方向でした。
    
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  • 認知症の家族に賠償責任がないとされた事案

    
    最高裁第３小法廷判決：平成２８年３月１日
    
    　事案：認知症の男性が一人で外出して列車に乗り、隣の駅で降りてホーム
    下に降リ、列車に衝突して死亡した事故について、妻と長男に対して、民法
    ７０９条又は７１４条に基づき損害賠償金として約７２０万円の支払いを求
    められました。妻や長男が、法定の監督義務者又はこれに準ずべき者に当た
    るかどうかが争点になりました。
    　
    　民法７１４条は、責任能力がない人が他人に損害を加えた場合には、監督
    する法定の義務を負う者が損害賠償責任を負うとしています。
    
    　妻に関しては、民法７５２条は、夫婦には同居、協力、扶助の義務がある
    としていますが、これらは夫婦間において相互に相手方に対して負う義務で
    あって、第三者との関係での義務を課するものではなく、精神障害者と同居
    する配偶者であるからといって、法定の監督義務者とはいえないとしました。
    　長男も法定監督義務者ではありません。
    
    　しかし、法定監督義務者ではなくても、責任無能力者との身分関係や日常
    生活における接触状況に照らして法定の監督義務者に準ずべき者として損害
    賠償責任を負うことがあるとしました。
    
    　その際、以下のような事情を総合考慮して賠償責任を問うことが相当か
    どうかという観点から判断をすべきであるとしました。
    　・その人自身の生活状況や心身の状況
    　・精神障害者との親族関係の有無や濃淡
    　・同居の有無、その他の日常的な接触の程度
    　・精神障害者の財産管理への関与の状況など、両者の関わりの実情
    　・精神障害者の心身の状況、日常生活における問題行動の有無・内容
    　・これらに対応して行われている監護や介護の実態
    
    　本件では、妻は、８５歳要介護１で監督することが現実的に可能ではな
    かったこと、長男は同居しておらず、月に３回程度訪ねていたに過ぎず、監
    督可能な状況になかったなどの理由から、二人とも法定の監督義務者に準ず
    べき者に当たらず、損害賠償責任を負わないとしました。
    
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  • 再婚禁止期間が違憲とされた事案

    
    
    最高裁大法廷判決：平成２７年１２月１６日
    
    　民法７３３条では、女性は離婚後６か月間再婚することができないとされています。
    再婚後に出生した子の父親が、前夫か再婚後の夫かわからなくなることを避けるためです。
    
    　判決では、医療や科学技術の発達した今日においては、１００日を超える再婚禁止期間は、
    父親を推定するために必要とはいえず、婚姻の自由に過剰な制約を課すものであるとして、
    再婚禁止期間の１００日を超える部分は違憲であるとしました。
    
    　晩婚化が進む一方で、離婚件数及び再婚件数が増加するなど、再婚をするについての制約を
    できる限り少なくするという要請が高まっている事情も考慮されました。
    
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  • 遺言の有効性が争われた事案

    
    
    最高裁第２小法廷判決：平成２７年１１月２０日
    
    　自筆証書遺言の文面全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンで１本の斜線が引かれていました。
    遺言作成者が故意に斜線を引いたもので、その遺言が有効か無効かが争われました。
    
    　原審は、斜線が引かれた後も遺言書の元の文字が判読できる状態である以上破棄したとは言えないとして
    遺言は有効としましたが、最高裁は概ね次のような理由から遺言は無効として、原判決を破棄しました。
    
    　赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、
    その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが
    相当であるから、その行為の効力について、一部の抹消と同様に判断することはできない。
    　遺言書に故意に斜線を引く行為は、民法１０２４条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に
    該当するというべきであり、遺言を撤回したものとみなされる。従って遺言は、効力を有しない。
    
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  • 子供の行為と親の責任

    
    
    最高裁第１小法廷判決：平成２７年４月９日
    　
    　１１歳の子がサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていたところ、ボールが校庭から道路へ
    転がり出て、これを避けようとした自動二輪車の運転者が転倒負傷し、その後死亡した事案について、
    親に損害賠償責任があるかどうか問題になりました。
    原審は親の責任を認めましたが、最高裁は概ね次のような理由から責任はないとしました。
    
    　責任能力のない未成年者の親権者は、その直接的な監視下にない子の行動について、人身に危険が
    及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があります。　
    　ゴールに向けたフリーキックの練習は、通常は人身に危険が及ぶような行為とはいえません。
    
    　親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は、ある程度一般的なものと
    ならざるをえません。
    通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によって、たまたま人身に損害を生じさせた場合は、
    当該行為について具体的に予見可能であるなど特別な事情が認められない限り、子に対する監督義務を
    尽くしていなかったとすべきではないとしました。　
    
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  • 遺族補償年金と損害賠償請求権との調整

    
    
    最高裁第大法廷判決：平成２７年３月４日
    　
    最高裁大法廷判決：平成２７年３月４日
    　
    　会社が従業員に対する安全配慮義務を怠り、使用者責任に基づく損害賠償義務を問われました。
    最高裁では、被害者の遺族が受ける遺族補償年金と逸失利益等の消極損害との関係が問題となりました。
    
    最高裁は概ね次のような判断をして、従前の判例を変更しました。
    
    　被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が
    遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、
    
    　遺族補償年金は、労働者の死亡によって、その遺族が扶養される利益を失うことを補うことを
    目的としていることから、同様の性質を有し、補完関係にある逸失利益等の消極損害の元本
    との間で、損益相殺的な調整を行うのが相当である。
    　その調整については、年金の支給が著しく遅滞するなどの特段の事情がない限り、
    不法行為のときに填補されたものと法的に評価するのが相当としました。　
    　
    　遅延損害金については、債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であるため、
    遺族補償年金とは性質が異なり、相互補完性もないとし、損益相殺的調整はしませんでした。　
    
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  • ＤＮＡ鑑定と親子関係に関する事案

    
    
    最高裁第１小法廷判決：平成２６年７月１７日
    　
    　婚姻中の妻が、夫とは別の男性と交際し、出産した子のＤＮＡ鑑定をしたところ、
    夫との間では生物学上の親子関係がないとの結果が出ました。
    妻が子を代理して、夫との間には親子関係がないことの確認を求めました。　
    
    　原審は、ＤＮＡ検査の結果によれば、生物学上の父子でないことは明白であること等から、
    子の請求を認容し、父子関係がないことを認めました。
    しかし、最高裁は概ね次のような理由から原審を破棄しました。
    
    　夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、　
    かつ、子が、現時点において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で順調に
    成長しているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が
    当然になくなるものではないから、親子関係不存在確認の訴えをもって父子関係の存否を
    争うことはできないとしました。
    
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  • 養育費の差押えに関する事案

    
    東京地裁判決：平成２５年１０月９日
    
    　離婚調停で決められた養育費の支払いがきちんとなされない場合、家裁から履行勧告を
    してもらえますが、それでも支払わない場合には給与等を差押えることができます。
    他方、給与を差押えられた側からすると、会社に居ずらくなって退職したりすることもあります。
    
    　養育費の支払いに不履行があった場合、民事執行法１５１条の２により
    期限未到来の養育費についても一括して差押えることができます。
    しかし、将来にわたる任意履行が客観的に見込まれるような場合にまで、差押えの効力を認めると
    相手方債務者や給与を支払う第三債務者（会社）に多大な負担をかけることになります。
    
    　判決では、客観的に養育費の任意履行が見込まれる状況にあるといえるときは、
    将来の養育費支払請求権にかかる部分については、差押えの必要性が失われるとして
    その差押部分を取り消しました。
    
    　本件では、期限未到来の養育費全額相当分を債務者の代理人弁護士に預託し、
    これを養育費の支払いに充てる旨弁護士とともに誓約するなどした事情が考慮されました。
    
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  • 共同相続において相続分の指定、特別受益の持ち戻し免除
    等があった場合と遺留分侵害

    
    最高裁第１小法廷決定：平成２４年１月２６日
    
    　被相続人は、後妻との間の子に生計の資本として株式等を贈与し、持ち戻
    し免除の意思表示をしました。また遺言で相続分の指定をし、後妻には
    ２分の１、後妻との間の二人の子には４分の１ずつとし、先妻の子には
    零としました。そこで先妻の子から、遺留分減殺請求がなされ、その効果が
    争われました。
    
    最高裁は、遺留分減殺請求の効果について概ね次のように判断しました。
    
    １　相続分の指定が減殺された場合には、遺留分割合を超える相続分を指定
    　された相続人の指定相続分が、その遺留分割合を超える部分の割合に応じ
    　て修正される。
    　　理由は　�@　相続分の指定が特定の財産を処分する行為ではなく、相続
    　　　　　　　人の法定相続分を変更する性質のものであること
    　　　　　　�A　遺留分制度が被相続人の財産処分の自由を制限し、相続人
    　　　　　　　に被相続人の財産の一定割合の取得を保障することをその趣
    　　　　　　　旨とすること
    
    ２　特別受益の贈与について、持ち戻し免除の意思表示が遺留分減殺された
    　場合、その贈与の価額は、免除の意思表示が遺留分を侵害する限度で遺留
    　分権利者である相続人の相続分に加算され、贈与を受けた相続人の相続分
    　から控除される。　
    
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  • 債権差押え、差押債権の特定についての事案

    
    
    最高裁第３小法廷判決：平成２３年９月２０日
    　
    　債権差押命令の申立に際しては、差押債権の種類及び額その他の債権を特定する
    事項を明らかにする必要があります。
    　差押えは、債務者に対して処分禁止、第三債務者（例えば金融機関）に対しては
    弁済禁止の効力があります。
    そして、差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達された時点で生じます。
    　では、大規模金融機関の全ての店舗を対象として順位付けし、預貯金額が差押債権額
    に満たないときは順次予備的に後順位の店舗の預貯金を差押債権とすること
    （以下、「全店一括順位付け方式」といいます。）はできるでしょうか。
    
    　判決では、第三債務者が、直ちにとはいえないまでも、差押えの効力が送達の時点で
    生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに、かつ、確実に、差し押さえられた
    債権を識別することが必要であるが、「全店一括順位付け方式」では、差押債権が特定
    を欠き不適法であるとしました。　
    
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  • 所有者不明の土地を時効取得したとする国に対する所有権確認訴訟

    
    最高裁第２小法廷判決：平成２３年６月３日
    
    　宗教法人が、本件土地（墳墓地）は、所有者のない不動産として国庫に帰
    属していたところ、２０年間占有して時効取得したとして、国に対して所有
    権を有することの確認を求めた事案　
    
    最高裁は、次の理由から確認の利益がないとして、訴えを不適法としました。
    
    １　国は、その土地が国の所有でないことを認めている。
    
    ２　国は、宗教法人が占有を開始した時点よりも前の、その土地が民有地に
    　なった時点でその所有権を失っている。
    
    ３　表題部所有者の登記も所有権の登記もなく、所有者が不明な土地を時効
    　取得した者は、自己が当該土地を時効取得したことを証する情報等を登記
    　所に提供して、自己を表題部所有者とする登記を申請し、その表示登記を
    　得たうえで保存登記の申請をすることができるが、本件ではその手続きを
    　尽くしたとはいえない。
    
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  • 原状回復・敷金返還請求の範囲についての事案

    
    
    最高裁第２小法廷判決：平成１７年１２月１６日
    　
    　建物の賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、
    賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があります。
    その際、賃借人が通常の使用をした場合に生ずる劣化や価値の減少（通常損耗）については、
    賃貸人がその補修費用を負担し、賃借人は原状回復義務を負いません。
    　では、通常損耗を賃借人が負担する約束（通常損耗補修特約）がなされる場合には、
    その特約は有効でしょうか。
    
    　判決では、特約により、賃借人に予期しない特別な負担を課すことになるから、
    次のような明確な合意が必要であるとしました。
    �@　通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか。
    �A　賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、
    　それを合意の内容にしたものと認められるか。　
    
    　いずれにしても、特約の有効性については、相当厳密に判断されることになります。
    
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